二巡目の打順が回ってきて、僕は三番ボールをそっとスティックで打ちました。
 スタートからころころと転がったボールは、第一ゲートにぶつかりながらなんとか通過。そして門脇先輩と関元先輩が立ちはだかります。
 僕は二人に迫りながら――
「カバディ! カバディ! カバディ!」
 思い切り怒鳴りました。早苗姉えに見られているという恐怖を、それから来る震えを、全て口から吐き出します。喉が痛いです。あと、女の子のような甲高い声が出て、自分でもびっくりしました。
 びっくりしたのは、ゲートボール同好会のお二方も同じです。僕が突然上げた奇声に門脇先輩が身をすくめ、彼女を心配する関元先輩は、思わず僕から目を外します。
「カバディ! カバディ!」
 そして僕は猛ダッシュ。身動きの取れない門脇先輩にタッチしながら通り過ぎます。
 すぐにボールにたどり着き、足でタッチ。振り返ると、すぐ後ろで関元先輩が、僕に伸ばしかけた手を止めていました。これで僕らに二点。
「はぁ……。門脇先輩、ごめんなさい……」
 僕は誰にも聞こえない声で謝りながら、よく狙ってボールを打ちました。関元先輩の二番になんとか当てます。二番を勢い余って一発でアウトにしてから、僕のボールは止まりました。
さっきと同じ、大声で威嚇(いかく)する作戦で防御を抜けながら、門脇先輩にタッチ。ボールにタッチし、一点入れながら打撃成立。
 スパーク打撃は、自分のか他人のかいずれかのボールがフィールド外に出てしまうと成立しません。よって今回の僕の打順はここで終わりですが、ともかく僕は三点稼ぎました。
「……何とかこれで、一点差まで縮まったな」
「いいんですか……これで……?」
 僕は剣崎先輩のもとへ戻りながら、早苗姉えのほうを振り向きました。彼女は何か複雑な顔をしていて、僕は凍り付きます。
 苦々しい顔の剣崎先輩が「……実力差を埋めがたい以上、やむを得ん」と腕組みして言っているのをよそに、ゲートボール同好会のほうを見ると――
 関元先輩が、震える両拳を握っていました。うつむいているので表情はよく見えませんが、その顔には影が差しているように見えます。門脇先輩が、「関元くぅん? どうか、しましたかぁ?」と、のんびりした声を彼に掛けていました。
 門脇先輩の打順。彼女は僕のボールに、自分のを当てました。しかし妨害の剣崎先輩が一人で前に出て、彼女をあっさりと捕えます。門脇先輩に対して、僕が使い物にならないからです。
 門脇先輩の打撃は成立せず、僕たちにまた一点。門脇先輩の四番は、第二ゲート近くに戻されました。一方その後方、さっき関元先輩の二番があった辺りには、僕の三番があります。剣崎先輩の一番と関元先輩の二番は、三番ボールの近くでともにアウトになっていました。
「これで同点か……。最初から、こうすればよかった」
 剣崎先輩が肩を回す一方、相変わらず複雑な表情の早苗姉えと、いつの間にか怖い顔になっていた関元先輩とが、僕は気になっていました。
「十対十! 試合終了まで、五分前です!」
 早苗姉えは、笑っていない目を僕に向けながら、笑顔で宣告しました。


 三巡目の打順が回ってきた剣崎先輩は、僕の三番の前に自分のボールをそっと打ち入れました。第二ゲート前にある門脇先輩の四番ボールからは、格好の的になります。しかしそれさえ阻止すれば、次の僕の打順でスパーク打撃につなぎやすい位置でした。
「カバディ、カバディ……」
 剣崎先輩は打撃を成立させるため、ボールの前を塞ぐ門脇先輩と関元先輩に迫りますが――
「……任せてくれ、門脇さん」
「関元くん?」
 関元先輩が、きょとんとする門脇先輩を尻目に前に出ました。
「カバディ……カバディ……カバディ……!」
 関元先輩と一対一で向き合った瞬間、剣崎先輩の声に緊張がにじみます。
 剣崎先輩は、関元先輩をまねたのか目線やステップでフェイントを掛けます。しかし彼は動じません。剣崎先輩が横に抜けようとするたびに、関元先輩はすっと身体ごと動いて阻止しました。予備動作のないその反応に、剣崎先輩は慌てて止まります。
 剣崎先輩は、代わりにタッチでフェイント。伸ばした手を、関元先輩が掴もうとします。
 彼の注意がそちらに向いている間に、横からダッシュ。関元先輩の脇でほけーっとしていた門脇先輩にタッチし、一点入れてからボールにタッチしました。打撃成立。
「手ごわいな……! 元バスケ部か?」
 剣崎先輩は、額にじんわりと汗を、そして顔中に獰猛(どうもう)な笑顔を浮かべていました。
「先輩、エスパーですか? その通りですけど」
「見てれば見当はつくっ! ……だがそうか、関元拓馬! 相手にとって不足はないっ!」
 僕と剣崎先輩がそんな会話をしている間、関元先輩はアウトからボールを打ち入れ、フィールドをほとんど横断した反対側で止めました。今僕と剣崎先輩のボールがあるところ、第二ゲートから手前に引いた位置からは、遠くて狙いにくい位置です。特に、ゲートボールに不慣れな僕らにとっては。
 その間じゅう、彼はずっと怖い顔をしていました。
「カバディ、カバディ、カバディ、カバディ」
 低く押し殺した関元先輩の声が、柔道場に響きました。
 防御のために立ちふさがる――というか、剣崎先輩の後ろに控えているだけですが――僕のお腹にも、彼の声はずんと重く響いてくるようです。
「カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ」
 彼は剣崎先輩と、じっくりと睨み合います。落とされた重心。小さく揺れる身体。ときおり入るフェイントのステップやタッチ。
 剣崎先輩もフェイントに動じずどっしりと構え、タッチしてくる手を逆につかもうと反応しますが――
「わっ!」
 関元先輩がいきなり顔に伸ばしてきた手、それから逃れるように、剣崎先輩は悲鳴を上げてのけぞりました。
 その隙に関元先輩は、剣崎先輩にタッチしながらダッシュ。彼がさらに伸ばしてきた手を慌てて避ける僕の横を抜け、ボールまで一気にたどり着きました。
「打撃成立! ゲートボール同好会に一て――」
「審判、タイム! 今の見たかっ?」
 早苗姉えの宣告する声を、剣崎先輩が遮(さえぎ)りました。
「彼は私に、目突きをしようとしてきたっ! カバディでは、暴力行為は反則だっ! 今すぐ彼にペナルティを与えろっ!」
 剣崎先輩は、関元先輩を指差しながら早苗姉えにまくし立てましたが、
「心外ですね、剣崎先輩。タッチしようとして、手元が狂っただけですよ。例えば、声の調子が狂って、思わず相手を威嚇するようなキャントをするとか――それと同じでは?」
 関元先輩は、肩をすくめながらしれっと答えました。
「くっ……!」
 剣崎先輩は、歯噛みします。
「……今回は警告で済ませますが、攻撃時の安全にはもっと配慮するように。キャントも、最低限審判に聞こえる程度の声量を心掛けてください。それでは二番の打撃成立、ゲートボール同好会に一点。試合再開」
 早苗姉えは、関元先輩、剣崎先輩、そして僕を見比べながら宣言しました。……その目つきが、徐々に険しくなります。
 僕の打順が、回ってきました。今、関元先輩の二番が、スタート位置から五メートルほど左に、門脇先輩の四番は第二ゲート近くにあります。
 一方で僕の三番は第二ゲートから結構手前に、剣崎先輩の一番は三番のすぐ前にありました。とてもスパーク打撃につなげやすい位置です。僕はスティックを握りながら、
「や、やっぱりせこい手で勝とうなんて考えが間違ってたんですねぇ。ぼぼ、僕はちゃんとカバディやってきたんだから、せせ、正攻法で、勝てるはずですよぉ」
 早苗姉えの目線にがちがち奥歯を鳴らしながら、僕は自分を励(はげ)ましました。ちゃんとカバディをやってきたなんて、もちろん嘘です。早苗姉えの前で、やらなかったとは言えないのです。
「立石くん?」
 剣崎先輩が、心配そうな顔をします。いつも暑苦しい彼女にしては珍しいですね。明日は雨でしょう。梅雨だから、どの道降るでしょうけど。
「だだ、大丈夫ですよ剣崎先輩。か、勝ちましょう。じゃないと、早苗姉えに合わせる顔があ、ありませんよ」
 僕は、スティックをボールに当てます。震える手で打ったボールは、すぐ先の剣崎先輩のボールに簡単に当たりました。
 その打撃の成否をカバディで争うために、僕は後ろに下がり、そして関元先輩と門脇先輩とが目の前に出てきます。
「カバ、ディ……カバディカバディ! ……カバディ、カバディ、カバディ!」
 僕はキャントしますが、そのリズムは乱れに乱れました。関元先輩の怒りと、早苗姉えの不信と、それぞれが込められた眼光が、がくがくと足を震わせます。そして、
「審判、タイム!」
 剣崎先輩の叫び声が、僕のキャントを中断しました。彼女は素早く僕の前に来て、
「立石くんっ!」
 ばちんっ!
 剣崎先輩は、僕の両頬を挟み込むようにビンタしました。
「……けんじゃきしぇんふぁい、ないしゅゆんでしか」
 顔を両側から圧迫されながら、僕は舌足らずな声を出しました。「剣崎先輩、何するんですか」と言ったつもりですが、伝わったでしょうか。
「立石くん、リピートアフターミーっ! カバディ、カバディ、カバディ……!」
 剣崎先輩は両手を僕の顔から離し、唐突に、カバディの攻撃中でもないのにキャントを始めます。しかも僕にもそれを真似しろととは、どういうことでしょう。
「剣崎先輩、そんなことより――」
「いいからっ! カバディ、カバディ、カバディ、カバディ……!」
「……カバディ、カバディ、カバディ」
 剣崎先輩の剣幕に押され、僕はキャントします。
「カバディ、カバディ、カバディ、カバディ」
 剣崎先輩も、僕と一緒にキャントを続けます。
「「……カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ」」
 数秒キャントを続けていると、剣崎先輩と声がそろってきました。
「「カバディ、カバディ、カバディ」」
 僕と剣崎先輩は、意味不明な言葉を、単調に繰り返します。それでも――
「「カバディ! カバディ! カバディ! カバディ! カバディ……!」」
 僕たちの合唱は、柔道場の空気いっぱいに力強いリズムを刻みました。
「……落ち着いたか? 頑張れよっ!」
 さらに数秒合唱してから、剣崎先輩はキャントを切り上げました。僕の肩をぽんと叩き、フィールドの外に出ます。
 気づいたら、関元先輩がこれ以上ないほど眉根を寄せ、ただでさえ険しかった表情をさらに険しくしていました。しかし、
「まあまあ、関元くん。楽しく行きましょうよぉ」
 門脇先輩の、間延びした声。彼女はほっこりした笑顔で僕と剣崎先輩を見比べてから、関元先輩の肩をぽんと叩きました。
 関元先輩が表情を和らげる一方、
「……試合再開」
 早苗姉えが、冷たい目を剣崎先輩に、そして僕に向けてきました。しかし僕は、
「……カバディ、カバディ」
 整った声で、キャントを始めます。重心を落としながらもしっかりと立ち、目の前の二人に向き合いました。
 関元先輩が、前に出ます。しかし僕とボールとの間隔があまりないので、門脇先輩は彼の真後ろには来られません。それどころか彼女も、今回は前に出てきます。戸惑う関元先輩の横目の目線を受けてから、
 くわっ!
 門脇先輩は、また目を見開きます。打撃の時に見せた、あの目です。
 彼女の目に弾かれたように、僕は前に出ました。同時に迎撃してくる二人。僕は彼女らに捕まりながら、脚を伸ばしました。
 ほとんどスライディングのような状態で出した足が、ボールに触れます。
 ゲートボール同好会は、これでむざむざ二点僕らに与えたことになります。しかし、
「楽しいですねぇ、カバディって」
 僕に抱き付いていた門脇先輩が、のんびりと言いながら離れました。正直、少し名残惜しいです。
 僕はまだスパーク打撃ができたのですが、鼻の下を伸ばしてしまったせいか、次はあっさりと捕まってしまいました。門脇先輩になら、一点くらいあげてもいい気がします。
 次の門脇先輩の打順。彼女は自球をそっと打ち、第二ゲートの入り口ぎりぎりに止めました。敵の球が当たっても味方の球が当たっても、押し出された自球がゲートを通過しやすい、実にいやらしい位置です。
「カバディ、カバディ、カバディ、カバディ……!」
 か細く、可愛らしいキャントをしながらも、門脇先輩は妨害する僕らに突っ込んできます。僕と剣崎先輩は慌てて捕まえますが、彼女の足はしっかりボールにタッチしました。どうやら僕のやったことを学習したようです。ゲートボール同好会に二点。
「杜生さぁん。今、何点ですかぁ?」
「……カバディ同好会十三点、ゲートボール同好会十四点です」
 門脇先輩は、早苗姉えに得点を聞いてから、
「ですって。逃げ切りましょうねぇ、関元くん」
 関元先輩に向けて、笑顔で小さくガッツポーズするのです。
「あ……ああ」
 関元先輩が、ためらいがちに彼女に同意し、
「よっし! 私たちも負けていられんなっ! 立石くん!」
 剣崎先輩も、右手の拳を左掌に叩きつけました。


 三巡目が終わり、試合時間は残り一分を切っていました。
 剣崎先輩は、自球をほんの少しだけ移動させます。さっき僕や門脇先輩がやったように、短距離で一気に突っ込んで、捕まりながら得点する作戦でしょう。遠くの二番ボールや、第二ゲート前の四番ボールは、僕や剣崎先輩の腕ではどうしようもないのです。
 それを見抜いたのか、関元先輩は彼女が突っ込んでくるなりさっと身をかわしました。しかし、見開いた目を爛々と輝かせた門脇先輩が迎え撃ちます。彼女に捕まりながら、剣崎先輩はボールにタッチして一点得点。
 これで十四対十四、再び同点です。
「試合時間終了! 二番の打順で、ゲーム終了です!」
 早苗姉えが、報告しました。競技時間が終了したときに、先攻の打者がプレイ中なら次の後攻の打者のプレイで、後攻の打者がプレイ中ならその打者のプレイで、ゲートボールの試合は終了します。この試合では、関元先輩の打順で終了です。
「……勝つぞ、門脇さん」
 関元先輩は、スタート位置から五メートルほど左、自分のボールの横でスティックを構えました。狙っている方向を見て、僕らに表情を見せずに。
 そして静かに、最小限の動きで打ちました。彼のボールは、滑りのいい畳の上をほぼまっすぐ転がります。第二ゲートのほうへと向かい、そこにあった門脇先輩のボールをゲートに通してから止まりました。
 僕たちは、最後の防御をするために、関元先輩の道を阻みます。
「カバディ、カバディ、カバディ、カバディ」
 関元先輩の張りつめた目が、声が、柔道場の空気を不思議と静かに感じさせます。
 僕と剣崎先輩は、ただじっくりと彼を待ちかまえました。二人で手をつなぎ、目いっぱい横に広がって。関元先輩が目線やステップで仕掛けてくるフェイント、それらに惑わされることはありません。
 そして――
 剣崎先輩が、くいっと僕の手を前に引きました。僕たちは、同時に飛び出します。
 関元先輩は、慌てて反応しました。そちらが抜けやすいと感じたのか、僕の横へと身体を倒し、ダッシュしようとします。
「おおおっ!」
 一匹の獣が、吠えました。
 そいつの名前は、立石圭護。年齢は十五歳。性別は男。身長は百六十八センチ。種族は人間のはずです。とある県立高校の、カバディ同好会に所属しています。
 その獣――すなわち僕は、関元先輩の片脚に前のめりに飛びつきました。彼は転倒するものの、僕に捕まった脚をすぐに引き抜きます。しかし、
「とったぁ!」
 僕が稼いだ一瞬の間に、剣崎先輩が動いていました。立ち上がろうとする関元先輩に抱き付き、押し倒します。
「カバディ! カバディ! ……くっ」
 関元先輩は、ほんの一秒だけもがいた後、悔しそうに畳を叩きました。
「試合終了! 十五対十四で、カバディ同好会の勝利!」
 早苗姉えが、宣言しました。
「がはははは! 波乱万丈あったが、とにかく勝ったぞっ!」
 立ち上がった剣崎先輩は、両手を腰に当てて野太い笑い声を上げます。
「……すまない、門脇さん。こんなふざけた奴らに……」
 関元先輩も、のそりと身体を起こしました。
 謝られた門脇先輩は、関元先輩のそばに寄ってきてしゃがみます。
「頑張りましたねぇ、関元くん」
 彼女はねぎらいの言葉とともに、関元先輩の頭をそっと撫でました。
 肩を落とす関元先輩をよそに、門脇先輩は立ち上がり、
「剣崎先輩。立石くん。ありがとうございました。カバディというのをやれて、楽しかったですよぉ。若い人たちと勝負して、私も熱くなれました」
 門脇先輩は、ややおばあちゃんっぽい台詞とともに、剣崎先輩に手を差し出しました。剣崎先輩は、一度目を丸くしましたが、
「……私こそ、ありがとう」
 ただ感謝の言葉とともに、門脇先輩の手を握り返しました。
 それを苦々しい表情で見ている関元先輩と、剣崎先輩は目を合わせます。そして気まずそうに目を逸らしていると――
「ほぅら。二人とも、仲直りです」
 門脇先輩が二人の手を取って、握手させました。剣崎先輩も、立ち上がった関元先輩も、素直に笑顔で握手を交わします。
「……剣崎先輩。認めざるを、得ませんね」
 僕ものそりと立ち上がりながら、剣崎先輩に声を掛けます。
「何をだ、立石くん? 偉そうに上から目線で」
「……楽しいですね、カバディ」
 僕がぽつりとこぼすと、剣崎先輩は、また目を丸くして――
「だろっ!」
 満面の笑みを、浮かべました。……そしてすぐに、畳に両膝と両手をつきます。
「立石くん。……よく考えたら私たち、カバディそのものはしてないよな」
「今さら気づいたんですか?」
 沈んだ声でぼやいた剣崎先輩に、僕は突っ込みました。
「……試合は終わったんだから、片付けをしましょうね?」
 早苗姉えの、凍り付くような声。彼女は目が笑っていない笑顔で、僕と剣崎先輩とを見比べていました。


 試合場を片付け終え、着替えも終えて、僕たちは昇降口に向かいました。制服のまま審判をして着替える必要のなかった早苗姉えは、先に出ています。
 僕たちは、並んで廊下を歩きます。
「それにしても、立石くん。剣崎先輩みたいな可愛い女の子と、手をつないだり合唱したりしたのに……なんか、あまりどきどきしてるように見えませんでしたねぇ?」
 門脇先輩が、首を傾げながら聞いてきます。
「…………」
 僕は、試合中のことを――さっき剣崎先輩と一緒にしたキャントのことを思い出しました。なぜだか顔が熱くなったので、
「……この人、地球人の女性なんですか? 僕はてっきり、カバディ星から来たカバディ星人だと思ってました」
 剣崎先輩を指差しながら、話を逸らしました。
「何を言うかっ! そんな素晴らしい星の生まれなら、私はずっとそこでカバディしてるっ! よって私は地球人! 以上証明終わりっ!」
 剣崎先輩は、胸を張りながら言い返しました。
「まったく……。こんな人たちと、これから掛け持ちし合うのか……」
 そんな関元先輩のぼやきが、聞こえた気がしました。
 昇降口を出て、見上げた空は相変わらず曇っていました。しかし空一面を薄く覆う雲には切れ目が入っていて、そこから差し込む日差しが光のカーテンを作っています。
 僕の人生にも、光が差してきた気がする――そんな恥ずかしい台詞の一つも、脳内に浮かんできたところで、
「圭護くん」
 昇降口を出てすぐ横にいた早苗姉えに、呼び止められました。僕は彼女を見て、剣崎先輩たちの視線――怯えた視線や、怪訝(けげん)な視線が入り混じっているでしょう――を感じます。
「帰ったら、しっかり勉強しようね? この放課後の遅れを、取り戻さなきゃ」
 早苗姉えの、怖いぐらい曇りない笑顔の美しさに身震いしながら、僕はうなずくのでした。