みんなして意気込んだはいいものの、まずは二つの競技で統一したルールを作る必要があると、僕らは結論しました。つまり、まずカバディとゲートボールとのそれぞれのルールを把握しないと話になりません。
 僕らはネットで調べものをしたり、分からないところを教え合ったりしました。
 門脇先輩が席についてのんびりとお茶をすする一方、教壇に立つ関元先輩が、
「……こうして、ゲートを順番に通過していく。ゲートを通過するたびに一点、ゴールポールに当てると二点獲得して上がりです」
 黒板に書いた図を指しながら、説明してくれていました。大きな横長の長方形の中に、番号が振られたコの字型が三つあり、中央には「G」のマークがあります。
 長方形の右下辺りには「スタート」と書かれていて、そこから少し上に行ったところには「1」の番号が振られたコの字型――これがゲートらしいです――があります。そのゲートから左斜め上、長方形の上辺近くには「2」のゲート。そして中央の「G」のマークの下、長方形の下辺近くには「3」のゲートがありました。
 さっきの説明で、関元先輩の指先がゲートを振られた番号の順番通り、逆時計回りにたどり、最後に「G」のマークで止まっていました。
 席に座る剣崎先輩はうんうんとうなずきながら、彼女の隣の僕は舟をこぎながら、関元先輩の説明を聞いています。
「関元くん、継続プレイは?」
「……今から説明するよ、門脇さん」
 首を傾げながら、のんびりと尋ねた門脇先輩に、関元先輩はため息まじりに答えました。
 彼が黒板に何か絵を描いている間、僕は意識を失いかけていて、
「起きろっ!」
「ふげっ!」
 剣崎先輩による、こめかみへのチョップで起こされました。
 顔を上げると、ボールがゲートをくぐっている絵と、ボールがボールに当たっている絵とが、黒板に描かれています。
「……ボールがゲートを通過したり、他のボールに当たってスパーク打撃が成立したりすれば、もう一回打撃ができます。スパーク打撃というのは――」
 関元先輩の説明を聞きながら、僕はまた寝入りました。そしてまた、こめかみへのチョップ。
 一通り関元先輩のルール説明を聞いた後、空き教室に据え付けのパソコンで、僕らはカバディやゲートボールの試合の動画も見ました。
 ゲートボールでは、老若男女様々な人が、関元先輩の説明通りのフィールドでボールを打っていました。味方のボールや敵のボールを弾いて都合のいい場所に移動させたりして、なんだかゴルフとビリヤードが融合したような感じでした。
 ……絵面的には地味なその試合を見ながらうつらうつらして、僕はまた剣崎先輩に叩き起こされたのでした。


 そうこうしているうちに遅くなったので、今日はお開きです。
 慣れない知識を詰め込んで、脳みそが疲れました。帰りのバスの中でも舟をこいでいると、
「痛てっ!」
 頬をつねられて、起こされました。
「じゃあ圭護くん。試験範囲の復習、しよっか?」
 二人席で僕の隣に座る早苗姉えが、微笑みかけてきました。
「あ、ああ早苗姉え! もちろんやるよ!」
 僕は震えながら、鞄に手を入れます。そして教科書を引っ張り出すと、一枚のルーズリーフが一緒に出てきました。
「……何、これ?」
 僕の脚の上に落ちた紙を、慌てて拾おうとした僕より先に、早苗姉えが手に取ります。
「えっと、それは――」
 僕はルーズリーフを取り返そうと手を伸ばしましたが、それは早苗姉えの微笑みに止められました。
「なになに……。ゲートにボールを通過させるたびに一点、ゴールポールに当てれば二点。ゲート通過でもう一回打てて、ゴールすると上がりで……」
 早苗姉えは、僕の書いたメモ書きを読み上げていきます。僕は字が汚いのですが、それでも読んでくれる早苗姉えは、僕のことをよく分かっています。ありがたくて涙が出そうです。
「圭護くん……。これは、何の勉強?」
 早苗姉えが、再び微笑みを向けてきます。
 僕は身震いして、彼女が返してくれたルーズリーフを慌てて鞄にしまいました。
「い、いやあ、その……。明日カバディ同好会で、ゲートボール同好会の人たちと、ご、合同で活動することになってさ……。活動内容を、おさらいしてたところだよ。だ、だから早苗姉えと試験勉強できなくなって、ざ、残念だなぁ」
 僕は笑顔を作りながら、だけど口元の引きつりを感じながら、今からやろうとしていることをぼかして説明しました。おまけに最後には「本当は早苗姉えと勉強したいんだけど……」なんてニュアンスのリップサービスも加える僕は、気の使える紳士ですね。
「ふーん……」
 早苗姉えは、すっと目を細めてから、
「試験勉強に使える日を、潰してまでやるくらいだから……。私やおじさんやおばさんにも、内容を言えるよね? 圭護くん」
 にっこりと、笑いました。
 早苗姉えの優しい笑顔に打ち震えて、僕は正直に白状します。明日の「活動内容」――僕のでたらめな思い付きから始まった、他の同好会との試合――について。
 早苗姉えは、うんうん、とうなずきながら、僕の話を聞いてくれました。そして、
「――その試合、私が見に来てもいいよね?」
 彼女が笑顔のままで言った言葉に、僕は逆らえないのでした。


 そして土曜日に登校し、午前の補習授業を終えて、午後。
 僕らは柔道場で、輪になって座っていました。昨日のうちに、柔道部が使う予定はないことをそっちの顧問の先生に確認し、使用許可も取ってあります。
「その『キャント』をしている間……。『カバディ』と連呼している間、何度でもボールを打てるというのはどうですか? ショットの正確さでこちらに、息の長さでそちらに分があると思いますが」
 関元先輩の提案を受け、
「駄目だっ! キャントだけがカバディじゃないっ! 逃げるか捕まえるか、食うか食われるかの緊張感ある攻防! それがカバディの醍醐味(だいごみ)! それなしに――」
 剣崎先輩が、ばんっ! と畳を叩きながら関元先輩に詰め寄り、
「その逃げるか捕まえるかの部分を、どこに入れるかですよね……」
 早苗姉えが眉根を寄せながら、後ろ髪を撫(な)でつけました。
 白熱した議論を続ける剣崎先輩と関元先輩――というか、主に熱くなっているのは剣崎先輩一人ですが――と、二人をなんとか調整しようとする早苗姉えを見ながら、
「……どうでもいいから、早く決めてくださいよぉ」
 僕は剣崎先輩の左隣で、あぐらを組んだ片膝の上に頬杖をついていました。もう片方の膝の上で、思わず指をとんとんします。
 早くルールが決まってくれないと今日も試合ができず、下手すれば明日もできないかもしれない。そして試験前に活動実績を作れず、早苗姉えの目が厳しくなるのを避けられない――そんな焦りが募(つの)ります。
「皆さん、熱くなってますねぇ。頭を冷やすために、少しお茶しませんか?」
 僕の左隣に座る門脇先輩が、他人事のように言いました。コンタクトを入れているのか、今日は眼鏡をかけていません。彼女は目の前の議論をのほほんと笑顔で見ながら、羊羹(ようかん)をおいしそうにかじります。
 僕らの前には、それぞれ羊羹やまんじゅうなどの和菓子や、缶の緑茶一本ずつが置かれています。門脇先輩が用意してくれたものですが、議論している三人はそれらに全く手を付けず、僕と門脇先輩のほうも見ていません。
 缶に両手を添え、湯飲みで飲むように上品に緑茶をすする門脇先輩を見ていると、なんだか肩の力が抜けてくる感じがしました。僕は彼女を見ながら、
「……門脇先輩、どうしてゲートボールなんてやってるんですか? あまり運動部って感じじゃないし……。お茶が好きそうだから、茶道部のほうが良かったんじゃないですか?」
 率直な疑問を、ぶつけてみました。
 門脇先輩は、ほとんど閉じているくらい細めたままの目を、僕に向けてきます。そしてほけーっと微笑みながら頬に手を当て、
「ええ……。確かにお茶は好きですけど……。自分で淹(い)れたり点(た)てたりするのは、めんどくさくって。あとお菓子も好きだから、太らないように運動したいんですけど……。激しい運動は、めんどくさいんですよぉ。だから適度にのんびり運動できる、ゲートボールにしたんです」
 彼女ののんびりした口調での説明を聞き、僕は肩を落としました。
「まったく……。そのマイペースさ、隣の人に分けてあげたいですよ」
 僕は横目で、唾を飛ばしながら何かまくし立てている剣崎先輩をちらりと見ました。
「そうですねぇ……。世の中、もう少しのんびり回ってくれればいいですよねぇ……。ああ、それでも……」
 門脇先輩は、にへらっと笑い、
「のんびりだけじゃない楽しさが、ゲートボールにはありますよぉ」
 間延びした口調で、さらっと言うのでした。
 僕が言葉に詰まっていると、
「……圭護くん?」
 早苗姉えの、低く押し殺したような声が聞こえました。
 僕が身震いしながら彼女を見ると、剣崎先輩が身を縮めています。関元先輩も、なぜだかとがめるような目を僕に向けていました。
「門脇さんと、ずいぶん仲良さそうに……。いや、議論に参加しないで、どうしたの? この『活動』の内容は変だけど、私もお膳立(ぜんだ)てを手伝ってあげる以上、圭護くんもいい加減にやれないよね?」
 早苗姉えは僕に笑顔を向け、あくまで静かな口調で僕に注意してきました。その目元には、どこか影が差しているように見えます。
「い、いやあ早苗姉え! これから勝負する相手だし、こんなちょっとの時間に親交を深めておこうと思っちゃっただけだよ! 大丈夫、僕もちゃんと参加するよ!」
 僕がまくし立てると、
「まったくっ! この場に参加しない奴は、せめて買い出しにでも行けっ! 安全性を考慮した結果、ちょっと資材を調達する必要が出てきたからなっ! サボりの君たち二人で……」
 剣崎先輩が、僕と門脇先輩とを交互に指差しながらわめきました。しかし、
「誰と誰の、二人で?」
 目が笑っていない笑顔をした早苗姉えに尋ねられると、剣崎先輩は身震いしました。
「いや……野郎二人で!」
 剣崎先輩は、慌てて僕と関元先輩とを指差しました。


「……いい先輩だな」
「いきなり自画自賛して、どうしたんですか先輩?」
 隣で関元先輩がこぼした言葉に、僕は突っ込みました。
 僕と関元先輩は、学校の近所のディスカウントストアで買い出しを終え、学校に戻る道を歩いていました。近所とはいっても、山道を歩きで十五分程度上ったところです。中学の受験シーズンから今まで、運動には半年以上のブランクがある僕にはちょっときつく感じました。
 雨は上がっていますが、空は一面雲で覆われています。まだ濡れている道を、僕と関元先輩は一緒に下っていました。
「……俺じゃなく、剣崎先輩のことだ」
 関元先輩は、僕にジト目を向けてきます。
「その……君と他の女子が仲良くするのを、杜生さんが快(こころよ)く思わないのは俺から見てもなんとなく分かった。だから買い物ついでに、男子同士で逃がしてくれたんだろう。一見短気なようで、意外と気が利くじゃないか」
「まず僕に買い出しさせることありきで、関元先輩と一緒に行かせたのは、早苗姉えが怖くてとっさに思いついただけじゃないですか? 基本的には、暑苦しくてうるさい人ですよ」
 僕は、肩をすくめました。
「……なら立石くん、君はなんでカバディ部にいるんだ? そりの合わない先輩にも耐えられるぐらい、カバディが好きなのか?」
「部じゃなくて同好会です。……えっと、その……そうですね。カバディは魅力的です。マイナースポーツだから、その……。余計な人が入りにくいこととか、うるさい人が入りにくいこととか、あと監視してくる幼馴染が入りにくいこととかが、具体的な魅力ですね」
「……すまないな。余計な詮索(せんさく)をしたようで」
 僕が説明すると、関元先輩はぽんと肩を叩いてきました。何か心配させたのでしょうか? 僕は彼に、心の底からの笑顔とともにカバディの魅力を伝えたつもりですが。
「関元先輩こそ、どうしてゲートボール同好会なんて入ったんですか? もっと本格的な運動部って感じですけど」
 関元先輩の身体を上から下まで見ながら、僕は尋ねました。レジ袋をぶら下げた腕は、開襟(かいきん)シャツの半袖から出た部分だけでも太く、筋肉を浮かび上がらせています。坂道を下る脚にも、スラックスの上からでも分かるほど筋肉がついていて、肩周りや胸板などもがっしりして力強そうでした。
 僕の質問を受けて、関元先輩は心なしか頬を染めながら、咳払いをしました。
「あー……。俺はもともと、バスケ部にいた。だが冬に膝を痛めたから、リハビリのためにゲートボール部に移ったんだ」
 関元先輩は、すらすらと説明しました。その口調はあまりにスムーズすぎて、どこかわざとらしく感じられます。
「バスケ部って言ったら、運動部の花形じゃないですか。ちょっと膝痛めた程度で辞めるなんて、もったいない。……あ、もしかして門脇先輩が目当てとか?」
 僕がにやけながらあてずっぽを言ってみると、関元先輩は赤くなった顔をばっと向けてきました。図星だったようです。
「ばっ……馬鹿を言うな! 何を根拠に!」
「えー? だって門脇先輩、見てたら癒されるじゃないですか。彼女のいるゲートボール同好会は、ハードな運動部で疲れた心のオアシスだったんじゃないですかぁ?」
 僕がさらに追及すると、関元先輩はまた一つ咳払いをします。
「あー……。彼女が入部の理由ではないと、断言させてもらうが……」


 関元先輩は一年のとき門脇先輩と同じクラスで、二学期には一緒にクラス委員をやっていました。そのとき、いろいろと危なっかしい彼女の姿を見たそうです。


 例えば、先生に頼まれた資料を運んだとき。
「門脇さん。そんなにいっぺんに運んで……大丈夫か?」
 段ボールひと箱分、その半分のプリントを抱えて廊下を歩きながら、関元先輩は隣の門脇先輩に声を掛けました。
「大丈夫ですよぉ。焦らずに運べば……うわっと!」
 関元先輩が抱えているのと同じ量をよろよろと運んでいた門脇先輩は、何もないところでよろけて、前のめりに転びかけます。
「門脇さん!」
 関元先輩は、プリントを放り出しながら、門脇先輩を受け止めます。二人が抱えていたプリントが、ばらばらと廊下に散らばりました。
 関元先輩は慌てて門脇先輩を放し、姿勢を正します。
「ああ関元くん、ありがとうございます。お怪我、ありませんか?」
 門脇先輩は、関元先輩をよく見ようと彼に一歩寄りましたが、
「門脇さん! プリント踏んでる!」
「あ。大変ですねぇ。早く拾わないと――」
 門脇先輩は数歩下がり、さらに他のプリントを踏みながら、プリントに埋め尽くされた床をおろおろと見回しました。
「……門脇さん、そこにいてくれ。あとは俺がやる」
 関元先輩は、ため息を吐きながらしゃがみ込みました。


 例えば、文化祭の出し物を議論したホームルームのとき。
「それでは時代劇、お化け屋敷、メイドカフェ・執事喫茶の中から選びたいと思いますが――」
 意見が出尽くしたので、関元先輩は黒板に書きつけた候補を選ぶために多数決を始めようとしましたが、
「……ねえ関元くん。お茶屋とか、どうですか?」
 関元先輩の隣でずっとほけーっとしていた門脇先輩が、そのときになって唐突に口を開きました。教室中から、「え?」「今さら?」などという驚きの声と、「まあ、門脇さんだからな……」というため息まじりの声が漏れます。
 門脇先輩が「ほえ?」とすっとぼけながら、首を傾げていると、
「えー……お茶屋も候補に入れたいと思いますが、異論のある人?」
 関元先輩は、眉がひくつくのを感じながら、クラスメイトたちに問いかけます。
 教室中から笑い声と、「異論なしっ!」「よっ! 門脇さん係!」「もう付き合っちゃえよ!」などと、同意と冷やかしの言葉が返ってきます。それを背中で聞きながら、関元先輩は黒板に『お茶屋』と書き加えました。


「……だから、彼女一人で部活させるのが心配な気持ちは、正直に言えばある」
 関元先輩は、赤くなった顔を正面に向けたまま、歯切れ悪く説明しました。


 そもそも、ゲートボール同好会の立ち上げの経緯も――
「関元くんって、本当によく鍛えてますねぇ」
 ある日の放課後。戸締りのために二人きりになった教室で、門脇先輩は関元先輩の胸板をぺたぺたと触ってきました。
「俺がバスケ部なのは、知ってるだろう? 自慢になるんだが、みんなからはエースとして期待されてるんだ」
 関元先輩は胸板を触られるがままにしながら、熱くなった顔をそむけます。
「へえ、知りませんでした」
 胸板タッチをやめた門脇先輩がしれっと答えたので、関元先輩はがっくりとうなだれました。自分に対する、彼女の興味の薄さに。
「関元くんほど鍛えるのは、無理でも……。私も、少しは運動したいですねぇ。お菓子の食べ過ぎで、少し太ってきちゃって」
 門脇先輩はセーラー服の裾(すそ)を下のシャツごとめくり、お腹をぷにぷにとつまみます。関元先輩は、そこから慌てて目を逸らしました。
「自分の好きな運動をするのがいいよ。門脇さんには、何かあるか?」
 門脇先輩と一緒に教室を出ながら、関元先輩が尋ねると、
「ゲートボールに、興味がありますねぇ。適度にのんびり、運動できそうなので」
 門脇先輩は、にへらっと笑いながら答えました。
「…………」
 彼女と一緒に廊下に出てから、関元先輩は自分の膝をさすりました。ちなみに、当時痛めていたのは本当だそうです。
「……じゃあ門脇さん。俺と一緒に、同好会を立ち上げないか? 一人じゃ、活動しづらいだろうし……。俺も膝を痛めてて、もう少しマイルドな運動がしたかったところだ」
 教室のドアを施錠(せじょう)しながら、関元先輩は提案します。門脇先輩は、数秒ほけーっとした顔で考え込んでから、
「ええ関元くん。喜んで」
 満面の笑みとともに、答えました。


「ほほぅ? 関元先輩、さては庇護(ひご)欲をそそる女性がタイプですねぇ?」
 説明を終えた関元先輩を、僕は肘で小突きました。
「放っておけないだけさ。……だが立石くん」
 関元先輩は僕を小突き返し、そして真顔を向けてきます。
「君はどうだ? 嫌な人から逃げ、嫌な人と一緒に続ける部活は、君にとって何の意味がある?」
 関元先輩の問いに、僕は一瞬言葉に詰まりましたが、
「……さっすが、好きな人と二人きりで部活してる人は、言うことが違いますねぇ」
 すぐににやけて、関元先輩の頭をわしゃわしゃと撫でました。
「馬鹿を言うなと言っただろう!」
 関元先輩はまた顔を真っ赤にして、僕の手を払いのけます。
 曇り空の下を、僕たちは歩き続けました。


 僕と関元先輩とが資材を調達している間、残っていた女子三人はルールの調整を終えていました(というか、ほとんど剣崎先輩と早苗姉えが細かいところを詰め終えて、門脇先輩はお茶をしながら見ているだけだったらしいですが)。
 それから一時間ほど、ゲートボール同好会にカバディの基本的なフォーメーション――剣崎先輩と一緒にそれをやると、早苗姉えの目線が突き刺さってきました――を教えたり、僕らカバディ同好会もゲートボールの打ち方を教えてもらったり――早苗姉えの目が怖いので、門脇先輩ではなく関元先輩に教えてもらいました――してから、試合に臨(のぞ)みます。
 自分たちで作った、手作り感あふれるフィールドに、僕らは向き合いました。
 柔道場には、場内を示す赤い畳で仕切られた正方形が、二つ並んでいます。今は、二つの正方形がビニールテープでつながれ、一つの長方形のフィールドになっていました。短い辺は九メートル、長い辺は二十一メートルほどでしょうか。
 そしてフィールドの中には、棒状によじったテープで作ったコの字型のゲートが三個、そして中心には、同じくテープで作った短いポール一本が立てられていました。
 僕たち、カバディ同好会とゲートボール同好会は、体操服に着替えていました。長辺の一つの、フィールドに向かって右端近く、スタート位置に集まっています。
 その正面数メートル先の、「1」の番号が振られたゲート脇には、早苗姉えがストップウォッチと、スコアを記録するためのメモ帳を持って立っていて――
「これより、カバディ対ゲートボール統一ルール競技――『ゲボディ』の試合を開始します」
 試合開始を告げながら、ストップウォッチを始動させるのでした。