「――地底から美少女が現れても、いいと思わないかい? ももせくん」
 放課後、下校中。人目の少ない住宅街を歩きながら、私は問いました。
「何の話? ……って、アニメの話か。『空から降ってきた女の子と一緒に大冒険!』ってパターンに手あかが付いてきたから、その逆パターンの作品が見たい、ってこと?」
 私の隣を、ゆるふわショートの髪を揺らしながら歩く友人――ももせは、私の言わんとしていることをくんだ答えを返してくれます。
「その通り! だけど、『現実にそんなことあってほしいなぁ』って話でもあるんだよ! だって地底のほうが、リアルに未知のフロンティアがありそうだし、美少女も空から落ちてくるよりは安全に出てこれそうだし!」
 私がまくしたてると、ももせは肩を落としてげんなりとしていきます。彼女は、柔らかみのある丸顔を私に向けました。そして黒目がちの目を細め、眉根を寄せながら、
「地底は地底で、美少女というか人間が住むにはいろいろ問題ありそうだけど……。第一、あんたも女だけど、いいの? 未来(みらい)」
 冷静に突っ込みを入れてから、私の名を呼びました。私は思わず、むぐっ、と唸ります。
「い、いいんだよ! ディテールが甘くても、まずは夢を見たほうが面白いじゃん! それに時代のニーズは百合! 女同士で冒険やラヴコメしたっていいの!」
「はぁ……。こんな友達とつるんでるから、あたしには男ができないんだな……」
 ももせはため息をつきながら、額に手を当てました。
「異性に幸せを求めるより、自分自身のわくわくを探しな!」
「そんなの、どこにあるのさ?」
 ももせに切り返されて、私はまたも言葉に詰まりました。そして周囲へ慌てて目線をめぐらせます。
 私たちが今歩いているのは、民家の列に挟まれた、車通りのほとんどない道です。その端にふと目を留めてから、
「そ、そう! 例えばそこから! きっと今に、さっき言ってたみたいに美少女が出てきて――」
 とあるマンホールを指さしながら、目線はももせに向けました。逆に彼女は、私が示す先に目を向けてから、「ん?」と言うように眉をひそめ、
「未来。……そのマンホール、蓋が動いてない?」
 恐る恐るといった感じで、そこを指さしました。「え?」と間抜けな声を漏らしながら振り向くと、確かに――
 かたかた。かたかた。かたかた。
 下から何かに押し上げられているように、マンホールの蓋がかすかに上下していました。つまりこれは、
「美少女が、今まさに出てこようとしてるんだな!」
 ということだと、私は確信しました。「待って! 何か危ないものかもよ!」というももせの声を振り切り、突撃していきます。
「待ってろー! 今助けるからなー!」
 丸い蓋のそばに立ち、そのコの字型の取っ手を引き出して引っ張り上げ、腰を痛めてしまいそうな意外な重量にうんうん唸りながらどうにか蓋をずらすと――
「未来! 危ないって!」
 すぐ後ろに来ていたももせの言う通り、
「おお……!」
 確かに、ある意味とても危ないものが、穴と蓋の隙間から私を見上げていました。
「それ」は一言で言って、とんでもない美少女です。外はねの癖がついた銀色のロングヘアが、マンホールにわずかに差し込む光を浴びるなり、きらきら輝きました。雪のように白い肌は透き通るほど滑らかで、宝石のようなエメラルドグリーンの瞳が、軽く戸惑いの色を浮かべながらも、私に向いています。マンホールの内側の梯子に掴まる身体も、モデルのようにすらりとしていました。……その身を包む服はといえば、なぜかどろどろに汚れた作業着ですが。
「た――」
 謎の美少女は何か言いかけますが、
「ほらな! だから言ったじゃん! 美少女は地底から現れるんだよ!」
 私は興奮のあまり、ももせに振り返って勝利宣言をしました。
「いや、今さっき思いついたことを、長年主張してた持論みたいに言われても……」
 ももせが肩をすくめると、美少女ちゃんが「あの――」と声をかけてきます。
「ああ、ごめんね、話を聞けなくて。困ってるんだよね? いやむしろ困ってて! 私が今助けるから!」
 私は美少女ちゃんの前にしゃがみこんで鼻息を荒げ――彼女の体から漂う、下水のそれらしき濃厚な香りを吸い込んでしまいました。思わず「うっ」とうめきながら、身体をそらしてしまいます。美少女ちゃんも、申し訳なさそうに目を伏せました。
「未来、怪しいってこいつ。こういう時は黙って警察を呼ぶのが筋だって」
 追い打ちをかけるように、ももせが後ろから制服の袖を引っ張ってきます。しかし私も、一生に一度あるかないかの冒険のチャンスを逃したくはありません。
「なんだとう! 困ったときはすぐに公的機関やら文明の利器やらその他便利なサービスや道具のたぐいに頼る! それを当たり前と考える現代人の精神は、むしろ昔の人に比べて衰退してはいないかね!」
 私が反論している途中、「えっと……」という美少女ちゃんのためらいがちな声が聞こえました。
「昔は昔、今は今。現代日本人の、常識的な対応をしようよ?」
「だったら明日は明日だ! 『今』の常識を踏み越えることが、明日を創る――」
 私とももせが、なおも口論していると、
「――助けてください!」
 美少女ちゃんが、しびれを切らしたように叫びました。私が再び向き合うと、彼女の両眼にはじんわりと涙が浮かんでいます。
「……私の大切な人たちが、しいたげられているんです! 今こうしている間も! それと、ここに掴まり続けているのも、少し辛くなってきていて……」
 彼女が言う通り、確かにその折れそうに細い両腕がぷるぷると震えていました。今にも握力を失って落ちてしまいそうです。
 こんな美少女のピンチを放っておいては、女がすたります。よって、
「オッケー! いろいろな意味で緊急事態みたいだし、とりあえず一緒に降りるよ!」
 私が親指を立てて笑顔を見せると、美少女ちゃんの顔がぱっと輝きました。
「ちょ……ちょっと未来! 家の人が心配するよ! それと明日の学校はどうすんの?」
「その辺は、ももせから適当にごまかしといて! とにかく、これ以上の議論は無意味! 行ってきます!」
 私はそう断言して、マンホールに潜ります。ももせの呆れ顔に見送られながら、美少女ちゃんと一緒に地下へと下りました。

本日から、初めてのブログ用完全新作の連載を始めたいと思います。

タイトルは「がっかり地底無双」です。「空から降ってきた美少女に導かれて大冒険」にあこがれるオタクの少女が、地底から出てきた美少女とともに、地底の「王国」で残念な冒険をするお話です。全七話を予定しています。

私用により更新が滞ることがあるかもしれませんが、なるべく毎日更新したいと思います。
よろしくお願いします。

今まで日記的な記事を書いたり、過去作の供養投稿をしたりしていましたが、ぼちぼちとブログ用の完全新作の企画に移りたいと思います。今年の十月から来年の三月までは、新人賞用の作品の企画や執筆などに当てたいので、九月までに最低一本はこのブログに掲載したいです。

「ブログ小説で稼ぐ」という挑戦を本格化するために、「有言実行すべし」というプレッシャーを感じつつもこうして公言することでやる気を増したいと思います。